触媒の活性を失わせる「触媒毒」を高い活性をもたらす触媒の「配位子」へ転換することに成功

触媒の活性を失わせる「触媒毒」を高い活性をもたらす触媒の「配位子」へ転換することに成功

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学府応用化学専攻 田中雪乃(博士前期課程2年生)、同工学研究院応用化学部門 平野雅文教授ならびに小峰伸之助教らのグループは、これまで触媒の活性を失わせる「触媒毒」として知られていた物質の一部を改変することで、触媒に結合した際に非常に高い活性をもたらす物質に転換することに成功しました。金属分子触媒に結合する物質を「配位子」と呼びますが、この成果により分子触媒に使われる配位子の新展開が期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会の有機金属化学専門誌「Organometallics」(11月6日付)に掲載されました。(DOI:10.1021/acs.organomet.8b00645)
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.organomet.8b00645

現状
  触媒反応に混入もしくは意図的な添加により触媒の活性を失わせる物質を「触媒毒」(Catalyst Poison)と呼びます。固体触媒とよばれる触媒では水銀やイオウ化合物、金属分子触媒とよばれる触媒ではジベンゾシクロオクタテトラエンなどが触媒毒になることが知られていました。

研究体制
 本研究は、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@工学府博士前期課程学生 田中雪乃(2年生)、同大学大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授および小峰伸之助教らにより行われました。また、本研究は、JST ACT-C JPMJCR12Z2、科学研究費補助金 基盤研究(B) 17H03051、および新学術領域研究「3D活性サイト科学」 26105003の助成などにより行われました。

研究成果
  当研究グループでは、ルテニウム錯体触媒を用いて多くの天然物や生理活性物質の部分構造となるスキップジエン(1,4-ジエン)の合成法を開発しており、より活性の高い触媒の検討を行っていたところ、均一系触媒の触媒毒として知られていたジベンゾシクロオクタテトラエンがルテニウムに結合した場合にも一定程度反応が進行することを見つけました。ジベンゾシクロオクタテトラエンにフェニル基を導入したフェニルジベンゾシクロオクタテトラエンをルテニウムに結合した場合に、非常に活性の高い触媒となることを発見しました。例えば触媒濃度1 mol%、反応温度30?Cで天然物テルペンの1つであるβ-ミルセンとアクリル酸メチルの反応を行ったところ、シクロオクタジエンを結合させた触媒では反応時間7時間で23%しか生成物が得られないものの、ジベンゾシクロオクタテトラエンを結合した場合、反応時間わずか1時間で生成物が97%の収率で得られました。また、この際におこる炭素―炭素結合の形成はより混み入った炭素上で進行する位置選択性を示しました。
 触媒毒として知られていたジベンゾシクロオクタテトラエンにフェニル基を導入することで、触媒に結合して高い活性を示す物質となった理由は、分光学的な解析などを用いて明らかになりました。この物質が金属に結合すると、金属上の電子を吸引する性質を示すため、電子豊富な共役ジエンと反応しやすくなったこと、かさ高いフェニル基の存在により、金属中心の立体的な混雑を避けるため、より混み入った炭素は金属から離れた位置に配置され、そこで炭素―炭素結合が形成されること、さらに金属錯体上で生成物であるスキップジエンが生成した際に、フェニル基の立体効果により生成物が押し出されるように解離が促進され、触媒が次の反応にとりかかることができるためであると結論づけられました。なお、この触媒反応は水銀を添加しても反応が阻害されないことから、金属錯体が分解して析出した金属化合物が触媒となるのではなく、金属分子触媒として働いていると考えられます。
 
今後の展開
 本反応は各種スキップジエンの合成に有効な反応であるとともに、これまで触媒毒として知られていたジベンゾシクロオクタテトラエンにさらに多様な置換基を導入することで、より高活性で位置や立体選択性がより高い触媒反応の開発につながると考えられます。

(図1)例えるなら、毒りんごもペンを刺しただけで美味しいりんごに。触媒毒として知られていた物質にフェニル基を導入したところスキップジエンの高活性合成触媒の配位子に生まれ変わることを発見。
(図2)新規な触媒前駆体のX線結晶構造解析による分子の構造。黄色がルテニウム原子、赤が酸素原子、黒が炭素原子を示す。分子中の水素原子はbet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@省略。
(図3)推定される中間体とより混み入った位置で炭素―炭素結合が形成される理由。中間体Bではピンク色の部分が反発しあうため不利であるが、中間体Aでは緑の部分がお互いに最大限離れているため生成しやすい。

◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院 応用化学部門 教授
平野 雅文(ひらの まさふみ)
TEL/FAX:042-388-7044
メール:hrc(ここに@を入れてください)cc.jskrtf.com

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