糖鎖結合タンパク質を架橋しやすいのはどの求電子基?求電子性金ナノ粒子アフィニティーラベリングプローブの開発

糖鎖結合タンパク質を架橋しやすいのはどの求電子基?
求電子性金ナノ粒子アフィニティーラベリングプローブの開発

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院博士前期課程学生の鴨下潮音、須藤菜々子(当時)、学部生の松井紗帆 (当時)、同大学大学院工学研究院生命機能科学部門の櫻井香里准教授は、金ナノ粒子表面に糖鎖と求電子基を多価に修飾したプローブを種々設計?合成し、効率的にタンパク質との架橋反応を起こす求電子基を探索しました。その結果、p-およびm-スルホニルフロリド基がタンパク質反応基として有望であることを見出しました。本成果は、従来法では親和性に基づいて糖鎖の結合タンパク質を釣り上げることは困難だったという問題の解決につながることが期待されます。本研究成果をまとめた論文は、ChemBioChem誌のCover Picture Articleとしてハイライトされました。

本研究成果はChemBioChem誌に11月3日にWEBで公開されました。
論文名:Reactivity Analysis of New Multivalent Electrophilic Probes for Affinity Labeling of Carbohydrate Binding Proteins
URL:https://doi.org/10.1002/cbic.202100568


現状
 細胞表層に発現する糖鎖は、免疫やがん増殖などのシグナル伝達に関与することが知られていますが、それら糖鎖の認識に関わる結合タンパク質の多くは未解明です。しかし、糖鎖-タンパク質間相互作用は弱いため、親和性に基づいて、細胞が産生する多種多様のタンパク質の中から結合タンパク質を釣り上げる(=精製する)ことは困難でした。このため、細胞表層の糖鎖分子を模した人工分子を設計して親和性を増大させたり、さらに光反応基(光を照射することで強い結合となる)を導入したプローブを合成して糖鎖とタンパク質の結合を補強する、などの工夫がなされています。本研究グループは、結合タンパク質を捕まえるための新たな戦略として、光反応基に替えて求電子基による架橋反応の開発に取り組んできました。多くの求電子基は、常にタンパク質と反応性を示すことから、光反応基よりも高効率にプローブに結合したタンパク質を架橋することが期待されます。一方で、結合タンパク質以外のタンパク質とも反応しやすいという問題があり、未知の結合タンパク質の探索にはあまり用いられていませんでした。

図1: 糖鎖結合タンパク質と求電子性金ナノ粒子マルチバレントプローブのアフィニティーラベリング
図2: ChemBioChem誌にてハイライトされたCover Picture. 図中では、糖鎖結合タンパク質が糖鎖の玉座に座り、求電子基をプレゼントするゲストを迎えているというシーンを描いています.

研究体制
 本研究は、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院生命機能科学部門の櫻井香里准教授と同大学大学院工学府生命工学専攻博士前期課程学生の鴨下潮音、須藤菜々子(当時)、学部4年生の松井紗帆(当時)によって実施されました。本研究はJSPS科研費基盤研究C(18K05331)および基盤研究S(17H06110), 研究拠点形成事業「協調型アジアケミカルバイオロジー拠点」、A3 Foresight Program、およびグローバルイノベーション研究院の助成を受けたものです。

研究成果
 私たちは上記の問題を解決すべく、金ナノ粒子表面に多数の糖鎖と求電子基を修飾したプローブを7種類合成し、糖鎖に結合したタンパク質にのみ効率的に架橋反応を起こす求電子基を探索しました。これまでに私たちは、プローブの基盤として金ナノ粒子を用いた独自技術を開発しています。金ナノ粒子を用いる利点は次の3点です。①糖鎖分子と求電子基をそれぞれ合成し、任意の比率で金粒子と混合するだけでプローブを簡便に作成できます。②糖鎖分子と求電子基の局所的濃度が高くなるため、タンパク質への親和性と反応性が増大します。③金ナノ粒子の高い比重を利用して、架橋された結合タンパク質の遠心分離精製が可能です。
 異なる求電子基をもつ金ナノ粒子プローブをそれぞれ、2種類のモデル系結合タンパク質(PNA、RCA)に対して反応性を評価したところ(図1)、p-スルホニルフロリドプローブ2がいずれのタンパク質に対しても最も高効率的に架橋することが示されました。一方、非結合タンパク質であるウシ血清アルブミンBSAの共存条件下では、m-スルホニルフロリド3が結合タンパク質と選択的に反応して、架橋したタンパク質の効率的な精製を可能としました。これらの結果により、スルホニルフロリドが、親和性を指標として結合タンパク質を探索するためのタンパク質反応性基として有望であることを明らかにしました。

今後の展開
 独自技術である金ナノ粒子プローブを駆使することにより、親和性が弱いために精製が困難であった結合タンパク質の探索を可能とするタンパク質反応性基の開発に成功しました。今後、がんなどの疾患に関わる様々な糖鎖分子において、結合タンパク質を網羅的に同定することで、新たな創薬標的やバイオマーカーの開拓につながると期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授
櫻井 香里(さくらい かおり)
TEL/FAX:042-388-7374
E-mail:sakuraik(ここに@をいれてください)cc.jskrtf.com?

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