水だけで両親媒性セルロースナノファイバーを製造できる「水中カウンターコリジョン(ACC)法」のナノ微細化メカニズムを解明!

水だけで両親媒性セルロースナノファイバーを製造できる
「水中カウンターコリジョン(ACC)法」の
ナノ微細化メカニズムを解明!

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@農学府?農学部 寄附講座(環境循環材料科学講座)の近藤哲男客員教授、国立研究開発法人森林研究?整備機構 森林総合研究所の片岡厚研究コーディネーター、同大学大学院連合農学研究科環境資源共生科学専攻博士課程の波多野友博氏(日本電子株式会社所属)と同大学大学院農学研究院環境資源物質科学部門の船田良教授の研究チームは、バイオマス素材から水だけで両親媒性セルロースナノファイバーを製造できる「水中カウンターコリジョン(ACC)法」のナノ微細化メカニズムを解明しました。ACC法は、近藤教授らが2005年から提案?権利化し企業により実用化されていた製造法です。今回の微細化メカニズムの解明により、ACC法および両親媒性セルロースナノファイバーの製造に学術的根拠が担保されました。さらにセルロースナノファイバーのみならず各種バイオマス素材を水だけでナノ微細化できる、安心安全でSDGsに叶う手法として広く応用が期待されます。

本研究成果は、Biomacromolecules(8月19日付)に掲載されました。
論文タイトル:Emergence of amphiphilicity on surfaces of pure cellulose nanofibrils directly generated by Aqueous counter collision Process
URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.biomac.4c00581 

背景
 21世紀に入り、二酸化炭素削減のため化石資源由来の材料から環境調和型循環材料への変換が希求されてきており、天然由来のセルロース素材がその最有力候補として取り上げられてきました。セルロースは植物細胞壁を構成する主要成分であり、地球上で最も豊富に存在する生物由来の結晶性高分子繊維素材です。長い活用の歴史はありますが、この20年で植物由来の最先端素材として、繊維幅が100 ナノメートル(nm)以下のセルロースナノファイバー(CNF)の産業利用にいま大きな関心と期待がかけられてきています。その理由としては、CNFの比重が鋼鉄の5分の1程度で比強度は5倍以上であり、-200℃から200℃の広い温度範囲でガラスの50分の1程度の熱膨張変形しか示さない上に、比表面積が250 m2/g以上を示す高性能ナノ物質であることが判明したためです。
 この20年で多くのCNFの製造法が提案され、一般にCNFは強い親水性を示すとされています。CNFの優れた物性を利用する方向では、主に軽量で強度が高いという特徴を生かすため炭素繊維などに代わる樹脂の高性能補強材として、他の物質との複合化(ナノコンポジット)が期待されています。しかし、従来のCNFの製造方法では、表面が親水性となるため、CNFそのままでの複合化は容易ではなく、表面の改質が必須でした。一方、ACC法で製造されるCNFは、ポリプロピンなどの汎用疎水性樹脂にも強く吸着する「両親媒性」という他のCNFには見られない特徴を示しました。そこで本研究ではACC法によるCNFの両親媒性発現のメカニズムを解明することを目指しました。メカニズムの解明により、技術的および学術的担保もACC法に与えることから、ナノ微細化と同時に表面疎水化を可能とするバイオマス新素材の製造手法として広く実用化に向かうことが期待されます。

研究体制
 本研究チームの構成は以下の通りです。
?bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@:近藤哲男客員教授(農学府?農学部 寄附講座)、波多野友博(大学院連合農学研究科環境資源共生科学専攻博士課程(日本電子株式会社))、船田良教授(大学院農学研究院環境資源物質科学部門)
?森林総合研究所:片岡厚研究コーディネーター(産学官民連携推進担当)

研究成果
 ACC法とは、相対する試料懸濁水流の高圧衝突を利用して繊維軸方向に割断(劈開)させ、セルロース素材のみならずバイオマスをナノ微細化させるという近藤らが提案した手法です。図1に示すように、ACC法で水懸濁試料を高速で対向衝突させます。このとき、水の持つ運動エネルギーが衝突により衝撃波という熱力学的エネルギーに変換され、それが試料内に伝播され、試料内結晶の弱い分子間相互作用界面を優先的に開裂させ、界面剥離をさせます。いわば、斧で竹を上からたたくと、繊維軸にそって容易に割断され内部が表に現れるようなイメージを持っていただくとわかりやすいと思います。そのため衝突圧や衝突回数を制御することにより、ファンデルワールス分子間力や水素結合などの弱い分子間相互作用の選択的開裂または開裂の程度を制御することが可能となります。
 セルロース原料では、繊維軸に沿った結晶内分子間相互作用の開裂により新たに出現する表面が疎水性を示すようになります。このとき、断面形状には割断面を示す一定の角度が生まれます。この角度を原子間力顕微鏡(AFM)像の高さデータからの計算と走査電子顕微鏡像の実測から求めた角度、同時に結晶格子から計算される角度との一致の有無を検討することにより、ACC法で劈開される割断面が推定されることになります。本研究では、この現象を検証するため、ヘミセルロースなどを含む植物繊維ではなく、セルロース以外を含まない純粋な物質で高結晶性である酢酸菌由来のバクテリアセルロース(ペリクル)と呼ばれるゲル状試料を用いました。
 角度の実測の前に、まずACC法で得られたCNF(ACC-CNF)の両親媒性発現の確認を行いました。ここでいう両親媒性は、1本のナノファイバー内で各繊維面に親水?疎水の異なる性質が現れることを意味します。この両親媒性CNF表面の可視化による証明として、それぞれ親水性(図2a)および疎水性蛍光プローブ(図2b)でACC-CNFを二重染色し、それを共焦点レーザー顕微鏡観察した結果、1本のCNFの繊維軸に沿って2色のラインが観察され、親水および疎水性の異なる性質を示す繊維面が存在することが検証されました(図2)。
 次に、親水性基板上で試料を固定し、ACC処理前後のCNFの高さの変化を求め、断面三角形の角度を算出したところ、61.1°, 35.4°, 83.5°であり、これらよりバクテリアセルロース結晶の(110)または(200)面の界面の劈開が推定されました。これで出現した面は疎水性を示す表面と考えられます。その角度の実測のため、ACC-CNF試料を臨界点乾燥させたのち-90℃でブロードアルゴンイオンビーム(BIB)による試料断面作製を行い、高分解能走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察したところ、図4のように断面の形状の実測が可能となりました。実測値は、ほぼAFM観察で得られた上記の角度と同程度の値を示しました。すなわち、高結晶性バクテリアセルロース由来のACC-CNFは、原料の(110)または(200)面の界面が選択的に劈開されたものであり、結果として疎水性を示す面がCNF表面に現れることになります。以上、高分解能でのAFMおよび、BIBにより得られる試料断面のFE-SEM観察という可視化方法を駆使した解析の結果、ACC法は、ナノ微細化とともに1本のCNF内で各繊維面に親水?疎水という異なる性質が現れる両親媒性CNFを生み出せることが判明しました。

今後の展開
 水のみを用いるバイオマス素材のナノ微細化法であるACC法は、迅速な両親媒性CNFの製造法であるばかりでなく、i)どんな材料にも適用可能、ii)水流エネルギーで界面開裂させるため割断表面にダメージを与えない、iii)内在している天然素材固有の性質を表面暴露させる(CNFの場合は疎水性発現)、iv)他の手法と併用が容易、v) 有機、無機を問わず2つ以上の試料の同時ナノ化が可能、vi)疎水性水和により疎水性のナノカーボン材料の水分散性の向上を促す(実証済み)、などの利点が挙げられます。すなわち、ACC法により各種バイオマス由来ナノ材料の製造が可能になり、環境調和型循環材料創製へと展開されます。ナノ微細化と同時に表面疎水化を可能とするACC法で製造されるバイオマス新素材が化学改質を経ずに直接産業用途に使われるものと期待されます。
 現在、近藤らは水中で振とう混合するだけで、ポリプロピンなどの汎用疎水性樹脂粒子表面に両親媒性のACC-CNFを吸着被覆できること、さらにそれを50℃で数時間乾燥後に原料として通常の射出成形加工により、「細胞壁様CNF骨格を芯として内包する耐衝撃性樹脂」材料設計が可能ということを見出しています(近藤ら:ACS Applied Polymer Materials, 6, 1276 (2024))。

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用語説明
注1)ACC法(水中対向衝突法、水中カウンターコリジョン法)
水懸濁試料を高速で対向衝突させ、ナノ微細化させる方法。通常条件では、マッハ2(2000気圧)で2つのノズルから噴出されたジェット噴流が1点で衝突します(対向衝突)。
原料や衝突条件(噴出圧や衝突回数など)により、10-20 nmから数百nmまでの繊維幅やナノメートルからマイクロメートルサイズの繊維長まで制御が可能です。

注2)セルロースナノファイバー(CNF)
セルロースを主成分とする植物繊維を、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルサイズまでほぐして微細化した素材です。環境にやさしい天然物ながら、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持つ、熱で膨張しにくい、吸水性が高いなど、さまざまな特徴があります。また植物を原料としているため、再生型資源として気軽に身近なものから手にいれることができます。

注3)ブロードアルゴンイオンビーム(BIB)による試料断面作成法
試料に遮蔽板を密着させ、遮蔽板から出ている部分をブロードイオンビームで削って断面を作製する方法。低ダメージで、広範囲(最大1mm程度)を加工できます。

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図1:ACC法により疎水性面が露出されて得られる両親媒性セルロースナノファイバー(ACC-CNF)
図2: ACC-ナノセルロースの共焦点レーザー顕微鏡図 (a)親水性蛍光プローブで染色(縁が染色)、(b)疎水性蛍光プローブで染色(中央部が染色)、(c) (a)と(b)の二重染色重ね合わせ(両親媒性を示す)
図3:バクテリアセルロースファイバー(A)とそのACC処理後(ACC-CNF) (B)のAFM像と高さプロファイル
図4:ブロードアルゴンイオンビーム(BIB)により得られるACC-CNF断面の高分解能FE-SEM像

以上、図1-図4は原著論文(アメリカ化学会Biomacromolecules誌)から転載、改変したものです。

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? ◆研究に関する問い合わせ◆
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 環境循環材料科学寄附講座 客員教授
  近藤 哲男(こんどう てつお)
   TEL/FAX:042-367-5588
   E-mail:tuat-tekondo(ここに@を入れてください)go.jskrtf.com

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